2011年12月18日日曜日

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「認知メタファー理論はDeignanの批判にどのように応えるのか―言語と認知の乖離を超えるコーパス・メタファー研究の展望―」

Deignan (2005)は明らかに認知メタファー理論に大きなインパクトを持ちました。本シンポジウムでは、Deignanによる旧来の認知メタファー理論に対する批判を取り上げ、その当否をDeignanおよびコーパスを用いたメタファー研究の立場と旧来の認知メタファー理論の立場の双方から吟味し、下記のような論点ごとにその妥当性を検証します。さらに、メタファー研究へのあるべきコーパスの利用法および言語表現と概念構造の関連を展望します。

・慣用性と死喩の問題
・頻度情報はメタファー研究にどのような意味を持つか
・品詞は概念構造の中で意味を持つか
・語の評価性とメタファー
・写像の不完全性はどのように考えるべきか
・言語から認知が研究できるのか

進行はまず、谷口講師から認知メタファー理論の基本的な枠組みに関してご説明いただき、次にDeignan(2005)の訳者の一人でもある大森講師からDeignanの論点を実例を交えてご説明いただきます。休憩を挟んで鍋島からLakoff and Johnson流の観点からDeignanの指摘および批判に対して再検討を加えます。最後に趣向をやや変えて、おもに日本語でコーパスを利用したメタファー研究を早くから続けている大石講師から、日本語の例でコーパスを使用したメタファー研究についてお話いただきます。

15:10-15:20 はじめに(司会)鍋島弘治朗
15:20-15:45 第1発表 (講師)谷口一美「認知意味論によるメタファー理論」
15:45-16:10 第2発表 (講師)大森文子「コーパスを用いたメタファー研究の方法と可能性」
16:10-16:20 休憩
16:20-16:45 第3発表 (講師)鍋島弘治朗「Deignanの批判に対するLakovianの反駁」
16:45-17:10 第4発表 (講師)大石亨「コーパス研究が明らかにするメタファーの文法」
17:10-17:30 質疑応答

日時:12月18日(日)15時10分から17時30分
場所:関西大学千里山キャンパス 第1学舎5階A501教室
当日参加費:会員・非会員ともに無料
お問い合わせ先: 関西大学鍋島研究室(spiralcricket@gmail.com)

英文学会関西支部大会懇親会 18:30-20:30 凛風館 2階 Di Noah (生協食堂) 会費 5,000円

2011年9月16日金曜日

認知意味論によるメタファー理論  (谷口一美講師 発表要旨)

認知意味論によるメタファー理論
谷口一美(大阪教育大学 准教授)

本発表は、シンポジウム全体の導入として、Lakoff, Johnson らによる認知意味論の枠組みによる概念メタファー理論を中心に概説する。Deignan (2005) の第1章から第3章で、概念メタファーを中心としたメタファー論のアウトラインが簡明に示されているが、その中でもとりわけ、概念メタファーを基に産出される言語表現の比喩性・慣用性の問題について取り上げる。Deignan がコーパスをメタファー研究に適用する必要性の根拠として挙げているのが、概念メタファーに基づき産出される(主に作例による)表現と、実際の使用における使用頻度との齟齬である。しかし、使用基盤モデル (usage-based model) の見方に基づくと、出現当初は新奇で比喩性の高い表現であっても、一定の頻度で使用されることにより、いわゆる「死んだ比喩」(dead metaphor) として慣用化される可能性は残されている。本発表では、使用頻度の低い新奇なメタファー表現が「生きた」概念メタファーの機能の一端を示すと捉え、比喩的意味の動態的な側面に対しどのようなアプローチが可能であるか、検討課題を示したい。

コーパスを用いたメタファー研究の方法と可能性 大森文子講師 発表要旨

コーパスを用いたメタファー研究の方法と可能性
大森文子(大阪大学准教授)

Deignan (2005) の研究の特色は、基本的にはジョージ・レイコフらの提唱した認知メタファー理論に基づきつつ、その理論成立の根拠である用例データが研究者の直観により生み出されたものであることの問題点を指摘し、現実の言語使用データをコーパスから大量に抽出するという研究の方法論とその有用性、研究の展望について詳述するところにある。彼女の詳細なコーパスデータ調査により、様々な文法パタン、語の同義・反義・包摂などの意味関係、ひとつの語がどういう語と共起するかという連語関係などにおいて、根源領域に由来する字義通りの表現と目標領域に由来するメタファー表現の用法に違いが見られること、概念メタファー理論には残された課題が多いことが明らかになった。本発表では、Deignanの方法論を援用し、コーパスデータを丁寧に観察することによって、言語使用の実態について何が見えてくるのか、認知メタファー理論の精密化にどのように貢献しうるのかを考察する。

Deignanの批判に対するLakovianの反駁 鍋島弘治朗講師 発表要旨

Deignanの批判に対するLakovianの反駁
鍋島弘治朗(関西大学教授)

Deignan (2005)は間違いなく認知メタファー理論に対して現時点で今世紀最大の衝撃を与えた提言書である。本論ではその批判を相対化すべく、論点を整理し、Lakoff & Johnsonらの立場から異なる視点を提供する。Deignanの批判を列挙すると以下の通りになる。1.品詞の問題、2.データの入手法、3.評価性の問題、4.メタファー表現の保守性(連語の問題)、5.写像の一貫性の欠如。誤解を恐れずに平たく述べればLakoffらの研究対象は概念と認知にあり、言語はそこに至る道具に過ぎない。我々の認知には世界との相互作用に由来する豊かな経験の世界が拡がっており、言語はそのインデックスに過ぎない。写像の一貫性の欠如はメタファー表現の保守性と称することができるがこれは言語の保守性の一例に過ぎず、メタファー特有の現象ではない。本論ではブレンディング理論、身体性も射程に含み大局的にDeignanの批判と提言を議論する。

コーパス研究が明らかにするメタファーの文法 大石亨講師 発表要旨

コーパス研究が明らかにするメタファーの文法―エコロジストとしてのA.Deignan
大石 亨(明星大学教授)

 Deignan (2005)は、コーパスデータは概念メタファー理論と矛盾することはないが、そ
れだけでは説明できない言語的特徴を持っており、この特徴は、予測が難しく固定化され
ているものだということを論じている。これは、言語が歴史の産物であり、多様な表現は
偶然がからんだ特殊なものであるということの必然的な結果である。長い歴史をもった特
殊なもの、そういうものにこそ価値があるのだという発想は、生物多様性を重視する生態
学者(エコロジスト)を髣髴とさせる。
 一方で、英語コーパスから得られる知見は、当然のことながら、品詞転換や単数形と複
数形の屈折による差異といった英語に特有のものにならざるをえないという憾みがある。
発表では、同じような現象が日本語ではどのような手段で実現されるかを例示する。具体
的には、ボイスと格助詞、漢語と和語、複合動詞の有無等による比喩的意味や使用領域の
使い分けを取り上げる。これらの現象が、多義性と単純化、表現性と経済性という矛盾す
る要求の緊張関係によってもたらされているという仮説を提示する。

シンポジウムタイトルと主旨

日本英文学会関西支部シンポジウム
認知メタファー理論はDeignanの批判にどのように応えるのか
     ―言語と認知の乖離を超えるコーパス・メタファー研究の展望―

日時および場所

日時:12月18日(日)15時10分から17時30分
場所:関西大学千里山キャンパス 第1学舎5階A501教室
当日参加費:会員・非会員ともに無料

発表内容

(講師)大森文子(大阪大学、認知言語学)タイトル「コーパスを用いたメタファー研究の方法と可能性」
(講師)谷口一美(大阪教育大学、認知言語学)タイトル「認知意味論によるメタファー理論」
(講師)鍋島弘治朗(関西大学、認知言語学)タイトル「Deignanの批判に対するLakovianの反駁」
(講師)大石亨(明星大学、コンピュータ科学)タイトル「コーパス研究が明らかにするメタファーの文法」
                                  司会 鍋島弘治朗

関連リンク

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